7-8年前のある晩、主人が帰宅するなり、
「今日、ナマのハンバーグを昼に食べたんだけど、すごく美味しかったんだ !」
と叫んだことがあった。
「ナマって、ハンバーグがナマ焼けだったってこと ?」
「違う ! 中身がナマ肉なんだ !」
「ん? タルタルステーキみたいなもの ?」
「そうじゃなくて、焼いてあるからハンバーグなんだ !」
「?? 冷凍のハンバーグが解凍しきれていないってことかな ?」
「違うんだよー。美味しいんだ !」と表現できないふがいなさに泣き出す…(ウソ)。
「最近は、ナイフを入れると熱い肉汁たっぷり、っていうハンバーグが人気みたいだけど ?」と、別方向から攻めてみたが、
「そういうのでもない。もういい」と諦めて去っていった。。
表現力のないヤツだ。
どちらにしろ、「洋食」は私にとって興味のないカテゴリーなので、深くは追求しないできた。
たまたまその界隈に出かけることになり、ネットで見てみると、ハンバーグは限定25食。
11時半の開店前に行列することは、最近では必須らしい。
大雨・暴風が予想される日だったので、11時20分に到着で間に合うとふんだ。
-並ぶの嫌いだから。ハンバーグも好きじゃないし。
並んでいると、感じのいいスタッフが、何人ずつのグループかを確認しに来る。
この店が初めての後輩に「最初は冷たいんだ。それを自分で焼くんだけれど、
冷たくてもいいんだ」と、力説しているサラリーマンの声が聞こえる。
意味がわからない。
表現力がないのはウチの主人だけでもないらしい、ということはわかる。
冷たくていいなら、焼かなくていいのでは?
靴を脱いで絨毯敷きにテーブルと椅子がセットされた部屋に上がる。
「夜は接待系牛肉屋」によくあるありふれたしつらい。レタスとトマトのサラダやお漬物がきちんとした味でびっくり。
ハンバーグは仲居さんぽい若い女性が、鉄板に牛脂をひいた上でざっと焼いて、切り分けてくれる。焼き過ぎにならないように、一部はお皿の上に戻してくれる。その説明も丁寧。
お待ちかね。
で、食べると「?!」
なんというか、確かに表現に困る味ですね。
後ろの席で、「ナマで食べてもいいんですか ?」とお店の方に訊いている人がいる。
たしかに私も、それを確認したいと思っていたところ。
つまり。芯にはまだ冷凍部分もある、脂肪分の多いハンバーグが配られる。自分で良く焼けば普通のハンバーグになる。しかしそれよりは、生のままで食べた方が美味しいのではないかと誰もが考えてしまうということなのだな、日本人特有のナマ信仰もあるので。その結果、「こういうのは焼き過ぎない方がいいですよね」という背後の囁きともなる。
行列2番手グループが通される部屋では、「味噌しゃぶ」を頼むしかなかった人々がいるので、そちらが世間話をしているのが聞こえる。
しかし、こちらの1番手グループのみ、「全員ハンバーグをオーダー」の部屋では、
会社の同僚グループで来た人々も、軽く接待系も、外人さんも、OLグループも、
全員無言になっている。
たまに「美味しいですね」、「うまいです…」という小声だけが交わされる、音のない世界。
-こういうのって、知らないけどラーメンおタクの世界なのでは ?
皆、ハンバーグを同じペースで食べているので、物凄い連帯感が生まれる。
今、この瞬間にここにいる人々が、同じことを考えているのがわかる。
「これは何 ? 美味しいわ」
いやはや、世界は一家、人類は皆兄弟。
わかりやすい味って大事ね。こんにゃくも、甘い根菜を避けている私にさえもわかる人参も、美味しくって。デザート付きでこのサービスで1,050円は安いわね。
脂、強すぎるけど。